大阪高等裁判所 昭和40年(う)2032号 判決
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〔判決理由〕論旨は、原判決認定のような改造をしたことは相違ないが、それは仮処分の対象物件たる本件建物の保存行為としてなされたものであり、かつ、その僅少部分を変更したのにすぎず、このような保存行為としてさ細な変更を加えただけの場合は、本件仮処分にいう現状の変更にあたらず、何ら差押標示を無効にしたものではないから、原判決が被告人の右所為をもつて刑法第九六条にあたると判断したのは、同法条の解釈を誤つた違法がある、というのである。
よつて案ずるに、原判決挙示の各証拠によると、阪上カルエは、本件建物の明渡請求権を保全するため、被告人並びにその内妻榊原菊子を被申請人として、大阪地方裁判所に対し仮処分命令を申請したところ、同裁判所は、昭和三六年五月一〇日「本件建物に対する被申請人らの占有を解いて、これを申請人が委任する執行吏に保管させる。執行吏は、被申請人らの申請があつた場合には、被申請人らが右物件の現状を変更しないことを条件として被申請人らが使用しているままで保管することができる。(中略)被申請人らは右物件の占有の移転その他一切の処分をしてはならぬ。」との仮処分決定をし、同裁判所執行吏家治浩造代理中西由太郎は、同月一二日、右決定の正本に基づき、本件建物の現場に臨み、右建物に対する被告人ら前記被申請人の占有を解いて、これを執行吏の保管に移し、右申請人らが目的物件の現状を変更しないことを条件として被申請人らが使用しているままでこれを保管することができるとの仮処分執行をしたうえで、本件建物の階下西側の壁に右趣旨の公示書を貼りつけたが、被告人は、原判決認定のように、昭和三七年七月二五日、右仮処分のあつたことを知らない松尾菊夫と、本件建物のうち階下東北側の間口約二、九五メートル、奥行約三、七五メートルの店舗を、同人に対し、保証金二〇万円、賃料月四千円で五年間賃貸する旨の契約を締結し、そのころ同人をして、同店舗の間口の約三分の二の幅にわたる土壁をこわし、その上部のガラス窓並びに出入扉を取り外して、間口全部にわたつてガラス戸を入れさせて改造させたうえ、同店舗をヤクルト販売所として使用させた事実を認定することができる。そして、前記証拠によれば、右店舗部分はもと斉藤某が賃借して同所でバーを経営していたが、本件仮処分当時すでに、同人は、その経営をやめて右店舗を明渡し、同店舗はバーの外観を呈したまま空室となつており、被告人は右建物からの出入に右店舗の出入口を使用していたくらいで、格別この部分を使用していなかつたものであるのに、前記認定のように仮処分債務者たる被告人が、仮処分執行後あらたに、仮処分の目的物件の一部の店舗を第三者に賃貸して使用させ、かつ、同人をして右店舗の間口部分全体を改造させたことは、本件仮処分にいう現状変更にあたるといつて差しつかえなく、また右変更が、所論の主張するように建物の保存行為としてなされたものでないことはもとより、被保全権利たる建物明渡請求権を少しも困難にしない、といえないことももちろんであり、被告人の本件所為が、これによつて差押の標示の効力を事実上減殺することになるのは論をまたない。所論引用の判例は本件と事案を異にし適切ではない。原判決には所論のような法律解釈の誤りはなく、論旨は理由がない。(山崎薫 竹沢喜代治 浅野芳朗)